「なあ、ちょっとだけ、腹ぁ割って話そうぜ?」
そう俺は夕食が終わると同時に一部クルーに向かって声を掛けた。
「話ィ?」
「おう、そうだ。話だ」
俺の言葉にむうっと唇を曲げてルフィが立ち上がったばかりの椅子に座りなおす。俺の提案にほんの少し眉を動かしただけでその場に留まったフランキー、ブルックもテーブルについたまま紅茶を啜って静かに待っている。どこかうんざりとした表情を浮かべたウソップの朝食はキノコで決まりだなと思いつつ、チラリと視線を寄越しただけで無言でグラスを傾けているゾロに俺は意外だと小さく目を瞠った。
「サンジくん、あたし達は出てた方がいいわよね」
俺と無言の男達を見ながら苦笑といった表情を浮かべたナミさんに俺はかすかに頷いて見せた。
「すみません、ナミさん、ロビンちゃん」
「ふふ、わかったわ」
「お、俺は?」
美女二人が軽く目配せして出て行く後姿を見送って、俺は他のクルーと同じようにテーブルにつくべきかそれとも出て行くべきかと困惑の顔を見せているチョッパーの帽子をポンと軽く押さえた。
「お前は居てくれ」
「よし! わかったぞ!」
男性クルーが全員残る中で一人だけ出て行くことに抵抗を感じていたのだろうチョッパーは俺の言葉に嬉しそうに返事を返すといそいそと先程と同じように椅子に座りなおした。どちらにしてもチョッパーは今回の件に無関係であると俺は理解しているし、もし何らかの形で俺がキレてしまったら唯一状況を理解しているチョッパーに止めてもらうしかない。事態を収拾するどころか悪化させてしまっては意味がないのだ。
「ちょっとだけ待ってろ」
俺は面々に向かってそう声をかけると片付け途中だった洗物を済ませ、あらかじめ用意してあった酒のつまみと共にそれぞれの手元にアルコールを満たしたグラスを配って回った。アルコールでそれぞれの口の滑りがよくなることを期待したのだが、約一名、まったく効果のない男がどこまで本音で喋ってくれるかが問題だった。
「さて・・・・」
それぞれの手元にグラスを配り終え、俺も自分の席に座りながらコホンと一つ咳払いをする。本当の本音をいえば『誰が俺を見ている』という事を聞きたいのだが、チョッパーがいう言葉を信じるとすれば『本人に自覚がない』というそれを尋ねてみたことで、誰からも俺が欲しい答えは返ってこないだろう。ならば・・・。
「皆に聞きてぇことがある。嘘偽りなしで答えて欲しい」
神妙な面持ちで俺が切り出したことに一瞬だけ場の空気が張り詰めた。
「・・・・・・・・俺の事・・・・・どう思ってる?」
「「「「はああ??」」」」
俺の質問に間抜けな声をあげてそれぞれが間抜け面を向けてくる中で、ゾロだけがほんの少し眉を吊り上げただけだった。
「・・・・サンジ・・・」
はあっと溜め息まじりのウソップの呼びかけに仕方ねえだろうと俺は心の中で悪態をつく。
実際自分でももう少し言いようがなかったのかと反省しているのだが、どう言っても聞きたい内容は同じなのだ。この質問が一対一でしたものなら色々と問題もありそうだが、のらりくらりとはぐらかしつつ核心を暴くような会話に持っていくには時間も俺の忍耐力も持ちそうにない。
実力行使で排除しない為にも妙な質問だがそれぞれに答えて、いや、考えてもらうしかないのだ。
「んーん? 好きだぞ」
モグモグと先程夕飯を済ませたばかりのはずのルフィが目の前に用意しておいたルフィ専用のつまみ、大量のドーナツを頬張りながらのほほんと答えてくる。
「そうだな、面白い兄ちゃんではあるな」
「ヨホホホホ~私は今まで食べた中でコックさんの料理が一番美味しいですねぇ」
「あ、俺もそう思うぜ。なんっつうか味もいいけど、盛り付けが芸術的だよなあ・・・・ナミ達のだけだけど」
ワイワイとルフィの意見に賛同しつつ、それぞれが俺に対する好意を表してくれるのだが、俺が知りたいのはそんなありきたりな感情なんかじゃなくて、もっとこう心の奥底にあるものなんだが・・と思いつつ、やっぱり示される好意に照れ笑いを浮かべた時だった。
「・・・・おもしれぇマユゲ」
騒がしい声に混ざって聞こえたその小さな呟きにヒクリと自分の唇の端が引き攣ったのを感じた。
~続く~
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[10回]
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