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【2025/07/13 23:08 】 |
花束をどうぞ -4-

「ああ、あの頃は若かったよなあ」
 オープンカフェというか、春と秋だけ設けられるオールブルーのテラス席に陣取ってサンジは口に咥えていたストローを上下に動かした。
「どうせ迷ってんでしょ」
「そうだなぁ、ゾロだもんなぁ」
 サンジの目の前で優雅に雑誌のページを捲ったナミと、高校に入ってから知り合ったウソップという悪友の言葉にサンジは違いねぇと言って小さく笑った。

 中学の時、体育の授業プログラムで知り合ったナミ、ゾロとはその後、何度か会う機会があり、いつの間にやらお互いに連絡を取り合ってまで遊びに行く関係になっていた。そんな友人関係を一年以上続ければやがて高校受験のシーズンになり、ナミの掛け声で三人は同じ高校へと進んだ。そして同じように三年間をその場で過ごし、互いに友人も増え、気付けば大学、専門学校、留学と、それぞれの道へと進んでいくこととなった。
 桜の散る季節に一度だけ会い、それから2年後の今日、この場で久しぶりの再会・・と、なるはずだったのだが、約一名、いまだに姿を現さない男がいる。
「で、サンジくん。あいつとはどうなのよ」
 一通り雑誌に目を通して満足したのか手元に紅茶を引き寄せながらナミが笑う。それにサンジはクルリと巻いた特徴的な眉を下げて、うーんと一つ唸るとなんともいえない表情で笑った。
「どうっていうか、どうもなってないって感じかなぁ」
「はああ? 嘘だろう?」
 サンジの返事にウソップが大げさに驚いた声をあげて手を止める。卒業と同時に海外へ渡り、その独特の感性からデジタルアートの世界へとすすんだウソップの目の前には彼が賞を取ったという作品がいくつか置かれていた。そのうちの一つ、友人と、つまりサンジ達と撮った卒業式のときの写真を、自分が作ったというフォトフレームに入れる作業を一人黙々と続けていたのだ。
「おいおい、俺はてっきりゾロとお前はあのまま付き合っていくんだって思ってたぜ?」
「あー、まあ、俺もそのつもりだったんだが・・・」
 苦笑いを浮かべてサンジはあの日の出来事をゆっくりと思い浮かべる。
 中学で出会い、高校生活を共に送るうち、サンジの中に友人の一人であるゾロに対して他の友人達とは違う感情が芽生えた。それは最初、サンジ自身も気付かないぐらいの小さな独占欲だったのだがそれが徐々に変化していき、いつの間にかサンジの中で抑え切れないぐらいの欲へと変化していった。
 恋愛感情、そんな簡単な言葉でいいのだろうかと思うぐらいの激しい感情にサンジは一時振り回されて、周囲に酷く迷惑をかけたのだ。その後、ゾロへのその感情が吹っ切れるまでサンジは悩みぬき、そして卒業の数日前、ゾロへとその感情を告げたのだ。
「ゾロはそんなつもりはなかったのかもなぁ」
 苦笑交じりに呟いて驚いた表情で見つめている二人からゆっくりと視線を逸らす。
 サンジの記憶の中のゾロはサンジの告白に顔を赤く染め、かすかに首を縦に振ったものと、その後、サンジの頬に衝撃を与えて逃げ去る後姿で終わっている。
 確かにゾロはサンジの告白を好意を持って受け入れてくれたとおもったのだが、なにぶん自分は若かったのだ。頷いたゾロに有頂天になり、その衝動のまま青春を突っ走ってしまった。
「いったい何をしたんだよ、サンジくん、素直に吐いてしまいなさい」
 おどけた口調で尋ねてきたウソップに苦笑いを向けてサンジはかすかに唇を歪めてみせた。
「あー、・・・キッス?」
「はああああ?」
「・・・何よソレ」
 ウソップの呆れたような声は純粋に驚きを含んでいるが、ナミの言葉には微かながらも棘が感じられてサンジは二人から視線を逸らすとカラカラとストローでグラスの中をかき混ぜた。
「告白して、OK貰って浮かれちまったんだろうなぁ。抱き締めてキスしたらパーンって」
「・・・・ひっぱたかれたわけ?」
「あー、まあ、そんな所」
 頷いてくれたゾロに喜色満面抱きついて、顔を赤くしたまま硬直したゾロが可愛くて、ついその唇に触れてしまったのだ。
 今思えば急ぎすぎてしまったと思うのだが、その当時は、たった数年前の事だが、ゾロに想いが通じて浮かれてしまっていた自分はただただ舞い上がって行動してしまったのだ。
 もちろんキスと言っても軽く互いの唇が触れた程度の軽いものだったが、それでも想い人に触れる事が出来たことはサンジにとって忘れてはならない思い出の一つとなっている。
「・・・で、引っぱたかれてその後どうしたのよ?」
 雑誌を軽く指先で叩きながら問いかけてくるナミにサンジはグラスをかき回していた手を止めて小さく笑った。
「走って逃げて行っちまったから追っかけたんだけど、結局その日は逃げられたままで。次の日も、その次の日も避けられちまって・・・」
「まさか、そのまま今日になった・・とか、言わねぇよな?サンジ?」
「・・・・・・・・・そう言いたいところなんだけどねぇ」
 顔を真っ赤にして逃げて行ったゾロの後姿がアイツをみた最後だなんてと小さく呟いたサンジにナミが呆れたというふうに肩を竦めて見せた。
「ほんと、どうしようもないわね、アンタ達って」
 はあっと苦笑混じりのナミの言葉にサンジも同意するとすっかり薄くなったアイスコーヒーを吸い上げたのだった。



~続く~

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