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「ヨホホホホ、どうでしたか?」
「あー、いいんじゃねえのか?」 バイオリンを降ろして問いかけてきたブルックにゾロは微妙な表情で感想を述べた。 芝生に寝転んで気持ちよく眠っていた所を起こされてなにやら真剣な顔(だろうと思われる)で、曲を作ったので聞いて欲しいと頼まれたのだ。何故自分に聞かせるのかと疑問に思ったものも、ブルックの真面目な雰囲気に言い出せず、ゾロは結局ブルックが曲を終えるまで静かにその曲に耳を傾けることになったのだった。 「気に入っていただけて良かったです」 「は?」 「では、私はこれで~」 「あ? おい?!」 ヨホホと特徴的な笑い声を残してヒョイヒョイと身軽に船内へと消えていった後姿にゾロは眉を顰め、はあっと大きな溜め息を零した。 「ああいうのはナミとかロビン向きだな」 胸焼けがしそうだとはさすがにブルックの手前、口にしなかったが、聞いて欲しいといってゾロの目の前で演奏された曲は甘ったるくとてもじゃないが自分向きの音楽だとは思えないものだった。まあ、ナミやロビンに聞かせるのならきっと喜んでもらえるだろうと結論づけてゾロはポリポリと後頭部を掻いた。すっかり眠気も失せてしまいキッチンに酒でも貰いに行くかとゾロは一つ息を吐き出してその場に立ち上がった。 「ゾロ!!」 「おう?」 ゆっくりと体を伸ばしながら手に刀を下げた時、甲高いチョッパーの声に名前を呼ばれゾロは顔を上げ、そしてかすかに眉を顰めた。 「ゾロ・・・」 「・・・二人揃ってなんだ?」 先程のブルックとは違い、どこか思いつめたような暗い空気の二人にゾロは表情を引き締めた。 「・・・悪い、ゾロ」 「は?」 「なんとか頑張ってみたんだけどよ、俺にはあれが精一杯だ」 「はあ?」 「俺も、頑張ったんだけど」 「は? 何を頑張ったって?」 「「ゾロ!!」」 ウルウルと涙を湛えたチョッパーの黒い瞳と、哀れみを誘うような風情のウソップにゾロはパチパチと瞬きを繰り返す。 「「ゴメン!!」」 大きな二人の謝罪らしき声に目を丸くして、その内容を問いかけるより早く二人の姿は船内へと消えて行く。 「・・・・なんだったんだ・・・?」 右左と首を傾げてゾロは小さく呟くと当初の目的どおり、キッチンへと向かって歩き始める。 アクアリウムバーに降りれば自由に飲める酒が常備してあるのだが、誰もが気軽に飲めるようにと置いてあるそれらは軽くゾロの好みではない。皆とワイワイ騒ぎながら飲むのならいざ知らず気分転換で飲むならキッチンにある、サンジ保管のゾロ向けの酒でなければ意味がないだろう。 ゴトゴトとブーツの底を鳴らしながら階段を上り、キッチンの扉を開こうとした瞬間、その扉は中から開かれた。 「おっと!」 咄嗟に開くドアから飛び下がったゾロの目の前でドアの取っ手に手を掛けたままフランキーが驚いたような声をあげる。 「おう、悪かったな、当たらなかったか?」 「ああ」 勢いよく開かれた扉だが、それに当たる様なお粗末な運動神経は持ち合わせていないとゾロは苦笑を浮かべた。 「あー、兄ちゃん、此処に用事か?」 扉に手を掛けたまま、それ以上開くでもなく問いかけてきたフランキーにゾロは軽く眉を寄せた。 「用・・・、いや、喉が渇いた・・・と」 まさかサンジに酒を強請りにいくのだとは言えず曖昧に言葉を濁したゾロにフランキーがグッと親指を立ててみせた。 「よし、オレ様取って置きを出してやる!」 ニヤリとサングラスをその指先で上げてみせたフランキーはゾロが返事をするより先に、後ろ手にその扉を閉めてしまった。 「おい?」 「・・・・どうした? コックの兄ちゃんにやっぱり用事か?」 不審げなゾロの声にニヤリとからかうような笑いを向けられて、思わず渋面になったままゾロはフランキーの後ろを追って歩き出す。 フランキー工房までの行程で擦れ違ったロビンに意味深に笑われ、ナミにどこか楽しそうに笑顔を向けられ、いったい何だとゾロは首を傾げる。 「・・・・なにかあったか?・・」 ホラよと、陽気に酒瓶を手渡してきたフランキーに問いかけるでもなく呟けば、またしてもニヤニヤと意味ありげに笑われる。 「まあ、楽しみは最後まで取っておくもんだぜ」 ゾロの問い掛けにもっともらしく答えたフランキーから瓶を奪うと、ゾロはその場を後に船長の下へと向かった。 「楽しみだな~ゾロ!!」 「おう、そうだな」 定位置で麦わら帽子を片手で押さえながら満面の笑みで告げてきたルフィに、ゾロはとりあえずそう答えて、その傍らでどこか甘ったるく感じる酒をのんびりと煽ったのだった。 その疑問はそれから数時間後、サニー号の甲板で開かれた宴、その賑やかな歓声で打ち消されることとなった。 『誕生日、おめでとうサンジ!!』 はにかんだように笑うサンジと楽しげなクルーの笑い声に、ゾロも機嫌よくジョッキを掲げたのだった。 ・・・・しかし・・・・・ 「・・・・・・・・」 「あー、あいつらなりのプレゼントってやつじゃねえの?」 甲板から聞こえる甘ったるいバイオリンの音。 どこから調達してきたのかピンクに紫に変わる照明器具に、何故かキラキラと輝くミラーボール。 ベッド脇にある小さなテーブルの上にはピンクのリボンの掛けられたシャンパンとグラスが2つ。 そして部屋の中央に設置された男二人でも十分余裕があるだろうと思われるキングサイズのベッド・・・と、枕の上に置かれた黒にメタリックな性生活必需品。 「・・・・・・・・・どうしろと」 目の前にあるとんでもない代物に目を据わらせたゾロと、甘いムードもヤル気もすっかり吹き飛んだサンジが目尻に涙を浮かべて爆笑する。 「まあ・・・あいつらの気持ちだし。・・・・・・・とりあえず、まあ、寝るか?」 船の上、手足を伸ばしてゆったりと寝れる経験など皆無と言ってもいいだろう。 ふかふかのスプリングの効いたベッドに罪はないだろうと、互いに顔を見あわせて笑いながら布団に潜る。 「コック、おめでとう」 「おう」 手を繋ぐでもなく、抱き合うでもなく、ただ同じベッドに入って眠ることになった夜にゾロは笑うと、小さな子供にするようにそっとそっとサンジの金の頭を優しく撫でてやったのだった。 ~END~ PR |
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面白いマユゲだと呟いたっきり、興味も示さず黙々と飲んでいるゾロを睨み付けて、俺は気持ちを落ち着かせるために深呼吸するとゆっくりと手元に灰皿を引き寄せた。 |
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「なあ、ちょっとだけ、腹ぁ割って話そうぜ?」 |
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最近一人になると途端に妙な視線を感じる事がある。
「!!!」 しかしその視線を感じた方へと勢いをつけて振り返っても誰もいないのだ。 「チッ! いったい誰だ・・・」 頭の中に浮かんだクルーの顔を打ち消しながら俺はイライラと胸ポケットから取り出した煙草を口に咥えた。 この怪奇現象が始まったのは数日前のある夜からのことだった。 いつものように見張り番へ夜食を届け、キッチンの戸締りを確認して、さて寝ようかとキッチンの扉を閉めたときだった。ジイイっと突き刺さるような視線を背後から感じたのは。 もちろんそのとき、俺の背後、つまりキッチンには誰も居なかった。 だから薄気味悪いと俺は気のせいだとそれを一蹴したのだ。 しかし、その日を皮切りに、俺はジットリと注がれる視線に何度も振り返るという行為を繰り返している。 「クソッ!!」 数日前から始まった声をかけるでもなくただ見られるだけという行為はその不気味さと伴ってそろそろ我慢の限界を感じ始めていた。俺自身信じてはいないが世の中にはユーレイや、妖怪(めいた知り合いもいるが)といった常識ではありえない存在がいると言われているし、俺も始めはこれはそういった類の、ぶっちゃけ言うと最近小競り合った海賊から奪った宝についているなにか・・だろうと思っていたのだが、どうもそうではないらしいのだ。 チョッパーが言うにはその現象が起こった俺の周りには匂いが残っているのだという。 俺の挙動不審に真っ先に気付いたのは動物だからかチョッパーが最初だった。その次に気付いたのはクソ剣士。そしてナミさん、ロビンちゃん・・・と、今ではクルー全員が俺に注がれる不可解な視線とやらに気付いている。そんな現状に俺はホッと胸を撫で下ろしたのだが、その不可解な視線の後に残る匂いはクルーの匂いなのだとこっそりとチョッパーが困ったような顔で俺に告げてきたことで振り出しに戻った。 俺の周囲にうっすらと匂いの膜が渦巻くような形で痕跡が残っているのだと小さな蹄を振り回しながら説明してくれたのだが、クルーの誰かだということは分かっても(知っている匂いだかららしい)、タイミングがあったとしても薄すぎて、一瞬だけのそれに判別できないのだとチョッパーは俺に教えてくれた。 まあ、つまりそんなチョッパーの話から想像するに俺を『見ている』のはサニー号に乗るクルーの内、『誰か』だということだ。 意識して見ることが出来るのは能力的にいってロビンちゃんだけだろうけど、ロビンちゃんが図書館でナミさんと航海について話をしていたときに俺は視線を感じた事があるのだ。つまり、俺的にはあって欲しいと願っていた視線の持ち主は麗しいレディではなく、チョッパーを除いた、ルフィ、ゾロ、ウソップ、フランキー、ブルックの男5人の誰かということらしい。 ・・・・もちろん、その事実に俺が鳥肌を立てて実力行使に及びそうになったのは他でもない。 チョッパーとレディ達に止められなかったらきっとサニーはきっと航海不可能なぐらいに破壊されていただろう。 とりあえず三人の意見は見ている本人に自覚がないのだから見ていることに気付けばこの現象は止まるだろうとの事だったし、何故見ているのかという理由を知りたくない?というナミさんの悪戯めいたチャーミングな笑みに俺がうっかり頷いてしまった事で現状維持という毎日を送ることとなった。 「・・・・・限界だ・・・・」 煙草を吸いながら人目のある甲板に出てきた俺は深く煙を吐き出しながら心情を口に出す。 本当に限界だとズルズルと目の前の柵に体を凭れかけさせる。 「くっそ! ほんとに何がしてぇんだよ」 始めはそれでも控えめに向けられていた視線は今では頭の先からつま先まで嘗め回すように俺の上を這っていく。それどころか・・・。 「・・・ッチ」 俺の上を這った視線は今度は服の中まで入り込むかのように皮膚の上を這いずり、じっくりねっとりと俺を玩ぶかのようにジリジリと刺激を与えてきたのだ。 ガンと腹立ち紛れに柵を蹴ると、あちらこちらから視線が注がれた先程と違う労わるような気遣うようなそれらに、俺は体に篭った熱を逃がすかのように一つ大きく息を吐き出したのだった。 ~続く~ . |
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