面白いマユゲだと呟いたっきり、興味も示さず黙々と飲んでいるゾロを睨み付けて、俺は気持ちを落ち着かせるために深呼吸するとゆっくりと手元に灰皿を引き寄せた。
「うーん、まあ、そういうのも、おおむね間違っちゃいねぇんだが・・、なんというか・・・そういうんじゃなくてだな」
煙草を口に咥え、火をつけながらどう説明したもんかと俺も首を捻る。ルフィが言った俺が好きとだという言葉が俺が知りたいものに一番近いといえば近いのだが、ルフィの好きに深い意味があるとは思えない。もっとも深い意味があったとしたらそれはそれでなんとなく怖いものなのだが。
「あー、あれだろ、コックの兄ちゃんが言いてぇのは、自分に対して勃つか勃たねぇかって事だろ」
ニヤリとサングラスを片手で押し上げて海パンアニキが陽気に言い放った言葉にヤレヤレと眉を顰めかけ、間髪いれず起きたガタンという大きな物音に俺は顔を向けた。てっきり露骨なフランキーの表現に青褪めているであろうウソップを想像していた俺は苦笑を浮かべた顔を向け、次に間抜けにもポカンと大きく口を開くこととなった。
「・・・え?・・・ゾロ?」
俺が予想していた人物とはまったく逆の、絶対にありえないだろうと思っていた人物が呆然と床に座り込んでいた。バチリと音がしそうなぐらい激しく視線が絡んだと俺が認識するより早く、カアアアアと音が聞こえるんじゃないかというぐらいの速度でゾロの顔が赤くなっていく。俺は椅子に座ったまま呆然とゾロを見つめ、ゾロは床に座り込んだまま俺を見上げているという間抜けな構図だ。
ゾロの手がゆっくりと己の口元を手で覆い、視線をかすかに俺から逸らし、床を彷徨わせた後、いきなりゾロはその場に立ち上がった。
「寝る!」
「え? え? え?」
吐き捨てるように一声吠えるとこちらの返事も待たず荒い足音を立ててゾロの姿がキッチンから消えて行く。
「え? え? ゾロ? これって、どういうこと?」
耳まで赤く染めたまま消えていったゾロの後姿にオロオロと繰り返していた俺の肩にポンと肉厚の手が置かれる。
「まあ、つまりそういうこった」
「ヨホホ。青春ですねぇ」
「青春って食えるのか?」
ニヤニヤと楽しげに笑うフランキーと陽気に音楽を奏で始めたブルック、そしてルフィの言葉に俺はポトリと唇に咥えていた煙草を落とした。その煙草を掴み上げ、丁寧に灰皿に押しつぶしたウソップが緩く左右に首を振りながら口を開く。
「良かったじゃねえか、サンジ。視線の主が分かって」
どこか哀れみの含まれたウソップの言葉に俺は咄嗟に椅子を蹴り倒してその場に立ち上がった。
「わアああぁぁァァ!!!!!!」
思わず船中に響いてしまうのではないかというような大声で叫びだした俺に、容疑が晴れた4人は陽気に笑って酒を楽しんでいる。奴らにとってはすでに他人事。当事者である俺にとってはどうすればいいのか皆目も見当がつかない状態だ。
「なあ、サンジ」
クイクイとスーツの袖を引かれて視線を向ければチョッパーが困ったように笑いかけてくる。
「あのな、見てたのがゾロだとしても、ゾロ、気付いていないんだぞ?」
「うわあああ、そうだったぁぁ!!」
予想外の人物の本音が暴かれて、一見解決したように見えた瞬間だったが、結局俺を見ているという自覚がゾロにはないのだと再認識させられた俺は遠慮なく雄叫びを上げ、ますますその場の笑いを誘ったのだった。
~続く~
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[19回]
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