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【2025/05/04 16:24 】 |
花束をどうぞ -2-

「あー、クソッ!!」
 ガンッと苛立ち紛れに床を蹴りつけサンジは装着していたゴーグルを毟り取った。
 目の前の液晶パネルには”GAME OVER”の文字が点滅し、自分の名前の横に”LOSE”の文字が表示されている。
「あのヤロウ・・・」
 グルグルと喉の奥で唸るように呟いてサンジはイライラと汗で湿りを帯びた前髪をかきあげた。
 後半組みとして『魔王の砦』のプログラムにアクセスするまではサンジは一発クリアし、クラスメイト達から受ける賞賛の声を信じて疑っていなかったのだ。事前情報として知っている限り自分の能力でクリアできないプログラムだとは思えなかったし、唯一の懸念であるパーティーメンバーの力不足も多少なりと自分がカバーできる範囲だと踏んでいた。
 のんびりとリラックスした状態で自分の番を待ち、バーチャルシステム専用のウエアに着替えて体育館に向かい、魔王の砦プログラムにアクセスした所までは予想通りだった。もしかしたらと、こちらも想像していた範囲内、ランダムパーティーのメンバーがサンジの学校の生徒ではなかった事も問題はなかった。たとえその二人が一人はヤル気を、もう一人はプライドを酷く刺激してくれたとしてもだ。
 一人はオレンジの髪のスタイル抜群の美少女で、もう一人は異様に目つきの悪い態度も悪い緑の髪の男子生徒だった。
「あーのー・・・バーサーカーめ!!」
 サンジは後続の組だった為、終わったからと言って急いでそのバーチャル室を出て行く必要はない。もちろんこの後も別のクラスが授業でこの場を使うだろうから何時までも居ることは不可能だったが、それでもサンジは腹立たしげに目の前のパネルを睨み付けて舌打ちを繰り返した。
 魔王の砦はやはり噂で聞いていた以上に難易度の高いものだったが、サンジの予想通り一発クリアできないプログラムではなかったのだ。
 だが、実際終わってみると”GAME OVER”の文字が表示され、サンジも他の級友たちと同じく再度このプログラムに挑まなければならないという事になってしまった。
「くっそぉぉ・・」
 地団太を踏むようにして悔しがってみても事実は事実として取り消すことは出来ないのだ。サンジはもう一度だけ怒りを床にぶつけるとダカダカと派手な音を立ててロッカールームへと向かって歩き出した。
 今回、ランダムで組み合わされたにしてはサンジのパーティーは非常に攻守のバランスがよく、且つ、優秀なメンバーだと、互いの能力値を確認してホッとしたのだ。オレンジの髪のナミという女の子は攻撃は多少苦手なようだったが他の女子の値からすればかなり高く、防御に関してはほぼ99%安心しておける能力を有していたし、プログラム内容を知っているのではないのか?と思ってしまうぐらい情報分析に優れていた。そして緑の髪のロロノアと名乗った男子生徒は異様なぐらい攻撃値が強く、防御に多少不安があるものの、妨害プログラムを一人で排除してしまうぐらい片手間にやってのけるぐらい強かったのだ。だから、サンジは攻撃面を彼一人に任せて、ナミと共に砦攻略のためのアレやコレやに奔走した。ナミは可愛く賢く頼もしかったし、会話はないもののコチラの意思が筒抜けなのじゃないかと疑ってしまうぐらい的確に邪魔プログラムとして出てくるモンスターもどきを排除する男の姿にサンジは最後の最後まで一発クリアを信じて疑っていなかった。
 だからまるでRPGの中に出てくる最終ボス、魔王が奥深くにいそうな砦に3人で踏み込んだとき、頭の中はうらやましそうなクラスメイト達の顔と攻略への質問攻めに答える己の姿を想像でいっぱいだったのだ。
「おーい、サンジー」
「あー、先行っといてくれー」
「おー」
  先にロッカールームで着替えていた級友に答えてサンジは汗に濡れたウエアをロッカーに放り込んだ。
 中学入学と同時に買い与えられたウエアはまだピカピカと新しく、当分買い換える時期は来そうにない。伸縮性にとんだウエアは高額な買い物である分、買ってから一年以内ならサイズ交換保証がつくのだ。女子生徒はあまり変化がないが、男子生徒は身長や体重に変化があるものが多い為保証金をつけて購入することが多いのだ。ただ、サンジはその期間を過ぎて、あと半年で中学を卒業しようというのに変化のない身長体重にクルリと巻いた特徴的な眉を顰めた。
 同じプログラムに参加していたということはあのロロノアという生徒はサンジと同じ学年だということになる。
 サンジより頭一つ分高く、一回りぐらい大きな体をした、今回のゲームクリアにならなかった原因は。
 PiPiPiPiPi・・・・バサバサと派手な音をたてて制服に着替えていたサンジの鞄から小さな機械音が漏れてくる。慌てて取り出した小型モバイルを覗き込めばナミという先程の少女の名前が表示されていた。
「・・・・ありがとう・・・・って・・・・ハハ」
 そういえばプログラムが始まる前にナミという少女とはアドレス交換をしていたのだと可愛らしく彩られた文字にサンジは苦笑した。3人パーティーではあるが全員がプログラムをクリアしなければならないというものではない。もちろん3人揃ってゲームオーバーになることもあれば、今回のようにナミだけがゲームクリアになることもある。
「どういたしまして・・っと」
 心の葛藤はおいて、ナミに柔らかな色彩の返事を返して、サンジは一つ溜め息をついた。
「ん?」
 返事を返すとすぐに手元で鳴ったモバイルに目を向ければ、またナミからメールが送られてきている。これはもしかして美少女とお近づきになれたのか!と喜び勇んで開いた文面にサンジは眉を寄せ、コトリと首を横に傾げた。
『今日の放課後時間ある?』
 ありますけど・・・と素直に返しながらサンジはウーン?と唸った。
『駅前のオールブルーに16時。OK?』
 OKっとハートマーク付きで返してサンジはニンマリと唇を歪めた。メル友になれればいいと思ってアドレスを交換したのだが、ナミが通う学校もこの近辺だったらしく一気にリアルお友達だとサンジはニヤニヤと笑み崩れた。
 今回の魔王の砦一発クリア出来なかったのは残念だったが、ナミという美少女と友達になれたのなら問題ないと、サンジはロッカーに入ったときとは別人のように上機嫌になりながら残りの授業へと向かったのだった。


~続く~


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