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サンジはうきうきと周囲に気味悪がられるぐらい上機嫌で残りの授業を受け終わると急ぎ足で駅前にある『オールブルー』という喫茶店へと向かった。
サンジが生まれる前からあるというその店は中学生が一人で行くには少々抵抗格式が高い店ではあったが、サンジは祖父と何度かこの店に珈琲を飲みに来たことがあった。 「あっ! サンジくん、こっち!」 今時珍しい自動でない扉を手で押し開けて店内に入ると同時に弾んだ少女の声に名前を呼ばれてサンジはその声の方へと顔を向けた。 「ナミ・・さん・・・」 「うん」 ニコニコと仮想空間で出会った美少女がにこやかに笑いながらテーブルの前に立って手を振っている。サンジは一つ息を吐き出し、走ってきたせいでドキドキとうるさい心臓を宥めるとゆっくりとオレンジの髪の少女の待つテーブルへと足を向けた。 「急にゴメンね。用事とか本当になかった?」 「うん、大丈夫だよ」 にっこりと笑顔で返したサンジにナミは良かったと言って楽しげに笑った。その笑顔に半ば感動しながら隣のテーブルと仕切られている衝立を回り込み、サンジはアッと言って小さく目を見開いた。 「あー、まあ、きっとゾロに文句言いたいんじゃないかな~と」 ペロリと悪戯っぽく驚いた表情で固まったサンジにナミが苦笑を向ける。それにパチパチと数回瞬きを繰り返し、サンジは先程とは180度違って不機嫌な表情で目を閉じている男へと視線を向けた。 「てめぇ・・・・・」 目の前で目を閉じ眠っているのかサンジのほうをチラリとも見ない男に、サンジはプログラム内での怒りを思い出してフルフルと拳を振るわせた。 「まあまあ、サンジくん。とりあえず座って、ね?」 そんなサンジに気付いたのか慌てたように椅子を勧めるナミにチラリと顔を向けて、サンジは憮然とした表情を隠すことなく同じテーブルに腰を降ろしたのだった。 「こいつ、こんなだけど甘党なのよ」 サンジの目の前にはアイスティー、ナミの前にはオレンジフロート、そしてゾロの前にはクリームソーダが置かれ、飲み物が並ぶと同時にナミの拳骨によって目覚めたらしいゾロがチビチビとスプーンでソーダの上に置かれているアイスを掬うのをサンジは珍獣でも眺めるように見ていたらしい。クスリと笑ってサンジに説明したそれにゾロの眉間にかすかに皺が寄りアイスを掬う速度が若干速くなった。 オーダーした飲み物が届くまでの間に簡単に互いの紹介を済ませた所、ナミとゾロはサンジの通う中学から二駅はなれた私学に通っている事実が判明した。ナミの知り合いがサンジの学校にいるらしく、プログラムの中でサンジが着けていた紋章から学校が分かりこうして連絡をしてきたのだとナミが説明してくれた。 「ごめんね、サンジくん。こいつも悪気があったわけじゃないのよ、たぶん」 フォローなのかフォローではないのか微妙な言葉を口にしてナミがオレンジジュースに浮かぶアイスを口に運ぶ。すでにアイスを食べきったゾロはストローで自らの髪と同じ色のソーダ水を飲み始めていた。 「こいつの迷子癖って天然記念物並みなのよ」 「俺は迷子じゃねえ」 魔王の砦、最終決戦場。まるで中世の城のような建物のトラップをかいくぐり、あと少しで課題クリアだと気を緩めた瞬間、まさかまさかの床落ちのトラップを見事に発動させてくれたゾロと、そのゾロに腕を掴まれたせいで道連れとなったサンジは結局時間までにナミを待たせていた魔王の居室に戻ることが出来ず、”GAME OVER”の文字を見るはめになったのだ。 「一本道で迷えば十分迷子だ、てめぇ」 そう、最後の最後は一本道。曲がりくねった通路でもなし、捻くれたトラップもなく、すんなりと終わるはずだったのだ。目の前のゾロが消えなければ。 「違う。テメェらがいなくなったから探してやってたんじゃねえか」 ナミの拳によって起こされたらしい男は始めはぼんやりとサンジを見つめ、徐々にプログラムの中であった無愛想で目つきの悪い男へと変貌を遂げていった。 「自分が迷ってたんだってなんで理解できねぇんだ、このクソマリモ」 「うるせえ、グルグル」 声を荒げさえしないものの二人の周囲に漂い始めた不穏な空気にチラリチラリとカウンター越しに店の主人の視線が向けられる。 「表出ろ・・・」 「上等・・・」 「え? ちょ、ちょっと、二人とも!」 ガタンと同時に椅子を引き、これまた同時にテーブルに紙幣を叩きつけると、サンジはゾロを伴って店外へと足を向けた。 「えー、ちょっと、待ちなさいよ。ゾロ! サンジくん!」 慌てたようなナミの声を背後から聞きながら仮想空間での借りを返してやるぜと鼻息荒くゾロを先導し公園に向かったものの、結局魔王の砦の二の舞となり、ナミと共にゾロの探索に一日を潰すはめとなったのだった。 ~続く~ . PR |
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