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ちらちらとサンジは落ち着きなく手元のグラスへ、そして窓の外の灯かりへと眼を向けて小さな溜め息を漏らした。
『すまん! 遅れた!』 予定の時間を2時間は軽く越えて最後の人物はオールブルーへと姿を現したのだった。 緑の髪は記憶の中と変わらず短く、けれど記憶より鮮やかなグリーンにサンジは知らず知らず息を飲んだ。 別れてから数年。その間に太陽に向かって伸びていく丘に立つ若木のような緑のイメージだった男は、しなやかに洗練された葉を繁らせた密林のようなイメージに変化していた。健やかな太陽に向かって枝葉を広げていた若木はたった数年で蔦をその身に纏った樹木へと変わったようだった。 「・・・・久しぶりだな」 静かな記憶より低い声のトーンにサンジはピクリと指先を震わせると、ああと小さく返してグラスを引き寄せる。 「あ、その。・・・元気・・だったか?」 「・・・それなりに」 カランとグラスで回る氷の音に続いてゴクリと喉の鳴る音がする。それと同時に己に注がれている視線にサンジはどうしたものかと落ち着きなく手の中のグラスの表面を濡らす雫を指先で拭っては広げるという動作を繰り返す。 待ち合わせ時間に2時間も遅れてきたゾロはたった一言の謝罪の後、まるで何事もなかったかのように自分達と合流してみせた。 実際ゾロの迷子癖は三人の中で認識された事実であり、今更どうといって騒ぐ内容の事でもない。だから、初めからゾロが定刻にその場にくるとは誰も思っては居らず、最悪一人残して解散、という状況も考えてはいたのだ。そしてその場合、当たり前のように最後の一人はサンジになる予定だった。 「ナ、ナミさん、遅いなあ」 ゾロが合流できたのなら、次はもう少し落ち着ける場所に移動しようということになり、夕食を兼ねてサンジが推薦した店の扉を潜った。しっとりとした大人の雰囲気漂う店は高級というほどではないが、和食を中心とした昔ながらの料亭で今日の為にとサンジが選んでおいたお店だった。 その店で二時間ほど、料理とそれぞれの近況報告、懐かしい学生時代の話に花を咲かせ、二次会へと移動する時になり翌日の予定が早朝からというウソップが泣き泣きその場を後にした。後できっと連絡をくれと、多少酒も入っていたウソップからしつこく何度も頼まれていたゾロが苦笑しては約束だと繰り返していた事をサンジも同じように苦笑を浮かべて聞いていたのだ。 その後、二次会としてナミに連れて行かれたのは意外や意外、駅前にある名の通ったホテルの最上階に位置するラウンジだった。数日前からこのホテルに滞在しているのだと笑ったナミは2、3杯、カクテルを空け、着替えてくるとサンジとゾロに告げ、席を外してからすでに30分近く経っている。 元々話すほうではないゾロと二人きりにされて困るということはサンジにはないのだが、それも卒業前の友人関係であった時の話だ。恋人・・・になったのか、なっていないのか、あやふやなまま月日を過ごし、今もまだ目の前の男が好きだと実感するサンジは内心困り果てていた。 実際、今のサンジはゾロに振る話題一つまともに思い浮かばなくてただひたすらにグラスの表面を濡らす雫を指先で拭い取っている。 「ナミなら・・・・」 「ナミさん?」 穴が開くんじゃないかと思うぐらいの視線の持ち主が出した名前にようやく顔を向ける。 「帰ってこねえぞ」 「・・・・・・・・・・・・・え?」 ゆっくりと口角が上がり、薄めの唇から漏れた言葉にサンジは間抜けな声を上げる。 「だから、ナミなら帰って来ねえって言ってんだ」 唇にグラスが押し付けられゴクリと喉仏が上下する。 そのゾロの言葉を頭の中で咀嚼してサンジはゆっくりと瞬きを繰り返した。 「・・・・・ここに泊ってんのは俺だ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」 再度間抜けな声を漏らしたサンジをおかしげに笑ったゾロが眼を細めて笑う。その見たことのない艶のある笑い方に思わず見惚れてしまったサンジは、静かに立ち上がったゾロから手渡された鍵を何の疑問も抱かずに受け取った。 伝票にルームナンバーを記入してエレベーターに乗り込んだゾロを追い、サンジはゆっくりと点滅を繰り返すプレートを眺める。 「・・・くるか?」 「ああ・・・・」 チンという金属音と静かに開かれた扉に目を向けたまま問いかけてきたゾロの背を追って、サンジもその階へと降り立つ。 「こっちだ」 チラリと手にしている鍵Noを確認しサンジは柔らかな絨毯を踏みしめて静かに歩き出したのだった。 ~続く~ PR |
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「ああ、あの頃は若かったよなあ」 |
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サンジはうきうきと周囲に気味悪がられるぐらい上機嫌で残りの授業を受け終わると急ぎ足で駅前にある『オールブルー』という喫茶店へと向かった。
サンジが生まれる前からあるというその店は中学生が一人で行くには少々抵抗格式が高い店ではあったが、サンジは祖父と何度かこの店に珈琲を飲みに来たことがあった。 「あっ! サンジくん、こっち!」 今時珍しい自動でない扉を手で押し開けて店内に入ると同時に弾んだ少女の声に名前を呼ばれてサンジはその声の方へと顔を向けた。 「ナミ・・さん・・・」 「うん」 ニコニコと仮想空間で出会った美少女がにこやかに笑いながらテーブルの前に立って手を振っている。サンジは一つ息を吐き出し、走ってきたせいでドキドキとうるさい心臓を宥めるとゆっくりとオレンジの髪の少女の待つテーブルへと足を向けた。 「急にゴメンね。用事とか本当になかった?」 「うん、大丈夫だよ」 にっこりと笑顔で返したサンジにナミは良かったと言って楽しげに笑った。その笑顔に半ば感動しながら隣のテーブルと仕切られている衝立を回り込み、サンジはアッと言って小さく目を見開いた。 「あー、まあ、きっとゾロに文句言いたいんじゃないかな~と」 ペロリと悪戯っぽく驚いた表情で固まったサンジにナミが苦笑を向ける。それにパチパチと数回瞬きを繰り返し、サンジは先程とは180度違って不機嫌な表情で目を閉じている男へと視線を向けた。 「てめぇ・・・・・」 目の前で目を閉じ眠っているのかサンジのほうをチラリとも見ない男に、サンジはプログラム内での怒りを思い出してフルフルと拳を振るわせた。 「まあまあ、サンジくん。とりあえず座って、ね?」 そんなサンジに気付いたのか慌てたように椅子を勧めるナミにチラリと顔を向けて、サンジは憮然とした表情を隠すことなく同じテーブルに腰を降ろしたのだった。 「こいつ、こんなだけど甘党なのよ」 サンジの目の前にはアイスティー、ナミの前にはオレンジフロート、そしてゾロの前にはクリームソーダが置かれ、飲み物が並ぶと同時にナミの拳骨によって目覚めたらしいゾロがチビチビとスプーンでソーダの上に置かれているアイスを掬うのをサンジは珍獣でも眺めるように見ていたらしい。クスリと笑ってサンジに説明したそれにゾロの眉間にかすかに皺が寄りアイスを掬う速度が若干速くなった。 オーダーした飲み物が届くまでの間に簡単に互いの紹介を済ませた所、ナミとゾロはサンジの通う中学から二駅はなれた私学に通っている事実が判明した。ナミの知り合いがサンジの学校にいるらしく、プログラムの中でサンジが着けていた紋章から学校が分かりこうして連絡をしてきたのだとナミが説明してくれた。 「ごめんね、サンジくん。こいつも悪気があったわけじゃないのよ、たぶん」 フォローなのかフォローではないのか微妙な言葉を口にしてナミがオレンジジュースに浮かぶアイスを口に運ぶ。すでにアイスを食べきったゾロはストローで自らの髪と同じ色のソーダ水を飲み始めていた。 「こいつの迷子癖って天然記念物並みなのよ」 「俺は迷子じゃねえ」 魔王の砦、最終決戦場。まるで中世の城のような建物のトラップをかいくぐり、あと少しで課題クリアだと気を緩めた瞬間、まさかまさかの床落ちのトラップを見事に発動させてくれたゾロと、そのゾロに腕を掴まれたせいで道連れとなったサンジは結局時間までにナミを待たせていた魔王の居室に戻ることが出来ず、”GAME OVER”の文字を見るはめになったのだ。 「一本道で迷えば十分迷子だ、てめぇ」 そう、最後の最後は一本道。曲がりくねった通路でもなし、捻くれたトラップもなく、すんなりと終わるはずだったのだ。目の前のゾロが消えなければ。 「違う。テメェらがいなくなったから探してやってたんじゃねえか」 ナミの拳によって起こされたらしい男は始めはぼんやりとサンジを見つめ、徐々にプログラムの中であった無愛想で目つきの悪い男へと変貌を遂げていった。 「自分が迷ってたんだってなんで理解できねぇんだ、このクソマリモ」 「うるせえ、グルグル」 声を荒げさえしないものの二人の周囲に漂い始めた不穏な空気にチラリチラリとカウンター越しに店の主人の視線が向けられる。 「表出ろ・・・」 「上等・・・」 「え? ちょ、ちょっと、二人とも!」 ガタンと同時に椅子を引き、これまた同時にテーブルに紙幣を叩きつけると、サンジはゾロを伴って店外へと足を向けた。 「えー、ちょっと、待ちなさいよ。ゾロ! サンジくん!」 慌てたようなナミの声を背後から聞きながら仮想空間での借りを返してやるぜと鼻息荒くゾロを先導し公園に向かったものの、結局魔王の砦の二の舞となり、ナミと共にゾロの探索に一日を潰すはめとなったのだった。 ~続く~ . |
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「あー、クソッ!!」 |
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キーンコーン、カーンコーン。 |
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