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【2025/05/04 14:04 】 |
花束をどうぞ -5-
 ちらちらとサンジは落ち着きなく手元のグラスへ、そして窓の外の灯かりへと眼を向けて小さな溜め息を漏らした。

『すまん! 遅れた!』

 予定の時間を2時間は軽く越えて最後の人物はオールブルーへと姿を現したのだった。
 緑の髪は記憶の中と変わらず短く、けれど記憶より鮮やかなグリーンにサンジは知らず知らず息を飲んだ。
 別れてから数年。その間に太陽に向かって伸びていく丘に立つ若木のような緑のイメージだった男は、しなやかに洗練された葉を繁らせた密林のようなイメージに変化していた。健やかな太陽に向かって枝葉を広げていた若木はたった数年で蔦をその身に纏った樹木へと変わったようだった。
「・・・・久しぶりだな」
 静かな記憶より低い声のトーンにサンジはピクリと指先を震わせると、ああと小さく返してグラスを引き寄せる。
「あ、その。・・・元気・・だったか?」
「・・・それなりに」
 カランとグラスで回る氷の音に続いてゴクリと喉の鳴る音がする。それと同時に己に注がれている視線にサンジはどうしたものかと落ち着きなく手の中のグラスの表面を濡らす雫を指先で拭っては広げるという動作を繰り返す。
 待ち合わせ時間に2時間も遅れてきたゾロはたった一言の謝罪の後、まるで何事もなかったかのように自分達と合流してみせた。
 実際ゾロの迷子癖は三人の中で認識された事実であり、今更どうといって騒ぐ内容の事でもない。だから、初めからゾロが定刻にその場にくるとは誰も思っては居らず、最悪一人残して解散、という状況も考えてはいたのだ。そしてその場合、当たり前のように最後の一人はサンジになる予定だった。
「ナ、ナミさん、遅いなあ」
 ゾロが合流できたのなら、次はもう少し落ち着ける場所に移動しようということになり、夕食を兼ねてサンジが推薦した店の扉を潜った。しっとりとした大人の雰囲気漂う店は高級というほどではないが、和食を中心とした昔ながらの料亭で今日の為にとサンジが選んでおいたお店だった。
 その店で二時間ほど、料理とそれぞれの近況報告、懐かしい学生時代の話に花を咲かせ、二次会へと移動する時になり翌日の予定が早朝からというウソップが泣き泣きその場を後にした。後できっと連絡をくれと、多少酒も入っていたウソップからしつこく何度も頼まれていたゾロが苦笑しては約束だと繰り返していた事をサンジも同じように苦笑を浮かべて聞いていたのだ。
 その後、二次会としてナミに連れて行かれたのは意外や意外、駅前にある名の通ったホテルの最上階に位置するラウンジだった。数日前からこのホテルに滞在しているのだと笑ったナミは2、3杯、カクテルを空け、着替えてくるとサンジとゾロに告げ、席を外してからすでに30分近く経っている。
 元々話すほうではないゾロと二人きりにされて困るということはサンジにはないのだが、それも卒業前の友人関係であった時の話だ。恋人・・・になったのか、なっていないのか、あやふやなまま月日を過ごし、今もまだ目の前の男が好きだと実感するサンジは内心困り果てていた。
 実際、今のサンジはゾロに振る話題一つまともに思い浮かばなくてただひたすらにグラスの表面を濡らす雫を指先で拭い取っている。
「ナミなら・・・・」
「ナミさん?」
 穴が開くんじゃないかと思うぐらいの視線の持ち主が出した名前にようやく顔を向ける。
「帰ってこねえぞ」
「・・・・・・・・・・・・・え?」
 ゆっくりと口角が上がり、薄めの唇から漏れた言葉にサンジは間抜けな声を上げる。
「だから、ナミなら帰って来ねえって言ってんだ」
 唇にグラスが押し付けられゴクリと喉仏が上下する。
 そのゾロの言葉を頭の中で咀嚼してサンジはゆっくりと瞬きを繰り返した。
「・・・・・ここに泊ってんのは俺だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 再度間抜けな声を漏らしたサンジをおかしげに笑ったゾロが眼を細めて笑う。その見たことのない艶のある笑い方に思わず見惚れてしまったサンジは、静かに立ち上がったゾロから手渡された鍵を何の疑問も抱かずに受け取った。
 伝票にルームナンバーを記入してエレベーターに乗り込んだゾロを追い、サンジはゆっくりと点滅を繰り返すプレートを眺める。
「・・・くるか?」
「ああ・・・・」
 チンという金属音と静かに開かれた扉に目を向けたまま問いかけてきたゾロの背を追って、サンジもその階へと降り立つ。
「こっちだ」
 チラリと手にしている鍵Noを確認しサンジは柔らかな絨毯を踏みしめて静かに歩き出したのだった。


~続く~

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【2010/09/25 23:45 】 | パラレル設定
花束をどうぞ -4-

「ああ、あの頃は若かったよなあ」
 オープンカフェというか、春と秋だけ設けられるオールブルーのテラス席に陣取ってサンジは口に咥えていたストローを上下に動かした。
「どうせ迷ってんでしょ」
「そうだなぁ、ゾロだもんなぁ」
 サンジの目の前で優雅に雑誌のページを捲ったナミと、高校に入ってから知り合ったウソップという悪友の言葉にサンジは違いねぇと言って小さく笑った。

 中学の時、体育の授業プログラムで知り合ったナミ、ゾロとはその後、何度か会う機会があり、いつの間にやらお互いに連絡を取り合ってまで遊びに行く関係になっていた。そんな友人関係を一年以上続ければやがて高校受験のシーズンになり、ナミの掛け声で三人は同じ高校へと進んだ。そして同じように三年間をその場で過ごし、互いに友人も増え、気付けば大学、専門学校、留学と、それぞれの道へと進んでいくこととなった。
 桜の散る季節に一度だけ会い、それから2年後の今日、この場で久しぶりの再会・・と、なるはずだったのだが、約一名、いまだに姿を現さない男がいる。
「で、サンジくん。あいつとはどうなのよ」
 一通り雑誌に目を通して満足したのか手元に紅茶を引き寄せながらナミが笑う。それにサンジはクルリと巻いた特徴的な眉を下げて、うーんと一つ唸るとなんともいえない表情で笑った。
「どうっていうか、どうもなってないって感じかなぁ」
「はああ? 嘘だろう?」
 サンジの返事にウソップが大げさに驚いた声をあげて手を止める。卒業と同時に海外へ渡り、その独特の感性からデジタルアートの世界へとすすんだウソップの目の前には彼が賞を取ったという作品がいくつか置かれていた。そのうちの一つ、友人と、つまりサンジ達と撮った卒業式のときの写真を、自分が作ったというフォトフレームに入れる作業を一人黙々と続けていたのだ。
「おいおい、俺はてっきりゾロとお前はあのまま付き合っていくんだって思ってたぜ?」
「あー、まあ、俺もそのつもりだったんだが・・・」
 苦笑いを浮かべてサンジはあの日の出来事をゆっくりと思い浮かべる。
 中学で出会い、高校生活を共に送るうち、サンジの中に友人の一人であるゾロに対して他の友人達とは違う感情が芽生えた。それは最初、サンジ自身も気付かないぐらいの小さな独占欲だったのだがそれが徐々に変化していき、いつの間にかサンジの中で抑え切れないぐらいの欲へと変化していった。
 恋愛感情、そんな簡単な言葉でいいのだろうかと思うぐらいの激しい感情にサンジは一時振り回されて、周囲に酷く迷惑をかけたのだ。その後、ゾロへのその感情が吹っ切れるまでサンジは悩みぬき、そして卒業の数日前、ゾロへとその感情を告げたのだ。
「ゾロはそんなつもりはなかったのかもなぁ」
 苦笑交じりに呟いて驚いた表情で見つめている二人からゆっくりと視線を逸らす。
 サンジの記憶の中のゾロはサンジの告白に顔を赤く染め、かすかに首を縦に振ったものと、その後、サンジの頬に衝撃を与えて逃げ去る後姿で終わっている。
 確かにゾロはサンジの告白を好意を持って受け入れてくれたとおもったのだが、なにぶん自分は若かったのだ。頷いたゾロに有頂天になり、その衝動のまま青春を突っ走ってしまった。
「いったい何をしたんだよ、サンジくん、素直に吐いてしまいなさい」
 おどけた口調で尋ねてきたウソップに苦笑いを向けてサンジはかすかに唇を歪めてみせた。
「あー、・・・キッス?」
「はああああ?」
「・・・何よソレ」
 ウソップの呆れたような声は純粋に驚きを含んでいるが、ナミの言葉には微かながらも棘が感じられてサンジは二人から視線を逸らすとカラカラとストローでグラスの中をかき混ぜた。
「告白して、OK貰って浮かれちまったんだろうなぁ。抱き締めてキスしたらパーンって」
「・・・・ひっぱたかれたわけ?」
「あー、まあ、そんな所」
 頷いてくれたゾロに喜色満面抱きついて、顔を赤くしたまま硬直したゾロが可愛くて、ついその唇に触れてしまったのだ。
 今思えば急ぎすぎてしまったと思うのだが、その当時は、たった数年前の事だが、ゾロに想いが通じて浮かれてしまっていた自分はただただ舞い上がって行動してしまったのだ。
 もちろんキスと言っても軽く互いの唇が触れた程度の軽いものだったが、それでも想い人に触れる事が出来たことはサンジにとって忘れてはならない思い出の一つとなっている。
「・・・で、引っぱたかれてその後どうしたのよ?」
 雑誌を軽く指先で叩きながら問いかけてくるナミにサンジはグラスをかき回していた手を止めて小さく笑った。
「走って逃げて行っちまったから追っかけたんだけど、結局その日は逃げられたままで。次の日も、その次の日も避けられちまって・・・」
「まさか、そのまま今日になった・・とか、言わねぇよな?サンジ?」
「・・・・・・・・・そう言いたいところなんだけどねぇ」
 顔を真っ赤にして逃げて行ったゾロの後姿がアイツをみた最後だなんてと小さく呟いたサンジにナミが呆れたというふうに肩を竦めて見せた。
「ほんと、どうしようもないわね、アンタ達って」
 はあっと苦笑混じりのナミの言葉にサンジも同意するとすっかり薄くなったアイスコーヒーを吸い上げたのだった。



~続く~

拍手[9回]

【2010/09/08 02:55 】 | パラレル設定
花束をどうぞ -3-
 サンジはうきうきと周囲に気味悪がられるぐらい上機嫌で残りの授業を受け終わると急ぎ足で駅前にある『オールブルー』という喫茶店へと向かった。
 サンジが生まれる前からあるというその店は中学生が一人で行くには少々抵抗格式が高い店ではあったが、サンジは祖父と何度かこの店に珈琲を飲みに来たことがあった。
「あっ! サンジくん、こっち!」
 今時珍しい自動でない扉を手で押し開けて店内に入ると同時に弾んだ少女の声に名前を呼ばれてサンジはその声の方へと顔を向けた。
「ナミ・・さん・・・」
「うん」
 ニコニコと仮想空間で出会った美少女がにこやかに笑いながらテーブルの前に立って手を振っている。サンジは一つ息を吐き出し、走ってきたせいでドキドキとうるさい心臓を宥めるとゆっくりとオレンジの髪の少女の待つテーブルへと足を向けた。
「急にゴメンね。用事とか本当になかった?」
「うん、大丈夫だよ」
 にっこりと笑顔で返したサンジにナミは良かったと言って楽しげに笑った。その笑顔に半ば感動しながら隣のテーブルと仕切られている衝立を回り込み、サンジはアッと言って小さく目を見開いた。
「あー、まあ、きっとゾロに文句言いたいんじゃないかな~と」
 ペロリと悪戯っぽく驚いた表情で固まったサンジにナミが苦笑を向ける。それにパチパチと数回瞬きを繰り返し、サンジは先程とは180度違って不機嫌な表情で目を閉じている男へと視線を向けた。
「てめぇ・・・・・」
 目の前で目を閉じ眠っているのかサンジのほうをチラリとも見ない男に、サンジはプログラム内での怒りを思い出してフルフルと拳を振るわせた。
「まあまあ、サンジくん。とりあえず座って、ね?」
 そんなサンジに気付いたのか慌てたように椅子を勧めるナミにチラリと顔を向けて、サンジは憮然とした表情を隠すことなく同じテーブルに腰を降ろしたのだった。
「こいつ、こんなだけど甘党なのよ」
 サンジの目の前にはアイスティー、ナミの前にはオレンジフロート、そしてゾロの前にはクリームソーダが置かれ、飲み物が並ぶと同時にナミの拳骨によって目覚めたらしいゾロがチビチビとスプーンでソーダの上に置かれているアイスを掬うのをサンジは珍獣でも眺めるように見ていたらしい。クスリと笑ってサンジに説明したそれにゾロの眉間にかすかに皺が寄りアイスを掬う速度が若干速くなった。
 オーダーした飲み物が届くまでの間に簡単に互いの紹介を済ませた所、ナミとゾロはサンジの通う中学から二駅はなれた私学に通っている事実が判明した。ナミの知り合いがサンジの学校にいるらしく、プログラムの中でサンジが着けていた紋章から学校が分かりこうして連絡をしてきたのだとナミが説明してくれた。
「ごめんね、サンジくん。こいつも悪気があったわけじゃないのよ、たぶん」
 フォローなのかフォローではないのか微妙な言葉を口にしてナミがオレンジジュースに浮かぶアイスを口に運ぶ。すでにアイスを食べきったゾロはストローで自らの髪と同じ色のソーダ水を飲み始めていた。
「こいつの迷子癖って天然記念物並みなのよ」
「俺は迷子じゃねえ」
 魔王の砦、最終決戦場。まるで中世の城のような建物のトラップをかいくぐり、あと少しで課題クリアだと気を緩めた瞬間、まさかまさかの床落ちのトラップを見事に発動させてくれたゾロと、そのゾロに腕を掴まれたせいで道連れとなったサンジは結局時間までにナミを待たせていた魔王の居室に戻ることが出来ず、”GAME OVER”の文字を見るはめになったのだ。
「一本道で迷えば十分迷子だ、てめぇ」
 そう、最後の最後は一本道。曲がりくねった通路でもなし、捻くれたトラップもなく、すんなりと終わるはずだったのだ。目の前のゾロが消えなければ。
「違う。テメェらがいなくなったから探してやってたんじゃねえか」
 ナミの拳によって起こされたらしい男は始めはぼんやりとサンジを見つめ、徐々にプログラムの中であった無愛想で目つきの悪い男へと変貌を遂げていった。
「自分が迷ってたんだってなんで理解できねぇんだ、このクソマリモ」
「うるせえ、グルグル」
 声を荒げさえしないものの二人の周囲に漂い始めた不穏な空気にチラリチラリとカウンター越しに店の主人の視線が向けられる。
「表出ろ・・・」
「上等・・・」
「え? ちょ、ちょっと、二人とも!」
 ガタンと同時に椅子を引き、これまた同時にテーブルに紙幣を叩きつけると、サンジはゾロを伴って店外へと足を向けた。
「えー、ちょっと、待ちなさいよ。ゾロ! サンジくん!」
 慌てたようなナミの声を背後から聞きながら仮想空間での借りを返してやるぜと鼻息荒くゾロを先導し公園に向かったものの、結局魔王の砦の二の舞となり、ナミと共にゾロの探索に一日を潰すはめとなったのだった。


~続く~


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【2010/03/06 23:19 】 | パラレル設定
花束をどうぞ -2-

「あー、クソッ!!」
 ガンッと苛立ち紛れに床を蹴りつけサンジは装着していたゴーグルを毟り取った。
 目の前の液晶パネルには”GAME OVER”の文字が点滅し、自分の名前の横に”LOSE”の文字が表示されている。
「あのヤロウ・・・」
 グルグルと喉の奥で唸るように呟いてサンジはイライラと汗で湿りを帯びた前髪をかきあげた。
 後半組みとして『魔王の砦』のプログラムにアクセスするまではサンジは一発クリアし、クラスメイト達から受ける賞賛の声を信じて疑っていなかったのだ。事前情報として知っている限り自分の能力でクリアできないプログラムだとは思えなかったし、唯一の懸念であるパーティーメンバーの力不足も多少なりと自分がカバーできる範囲だと踏んでいた。
 のんびりとリラックスした状態で自分の番を待ち、バーチャルシステム専用のウエアに着替えて体育館に向かい、魔王の砦プログラムにアクセスした所までは予想通りだった。もしかしたらと、こちらも想像していた範囲内、ランダムパーティーのメンバーがサンジの学校の生徒ではなかった事も問題はなかった。たとえその二人が一人はヤル気を、もう一人はプライドを酷く刺激してくれたとしてもだ。
 一人はオレンジの髪のスタイル抜群の美少女で、もう一人は異様に目つきの悪い態度も悪い緑の髪の男子生徒だった。
「あーのー・・・バーサーカーめ!!」
 サンジは後続の組だった為、終わったからと言って急いでそのバーチャル室を出て行く必要はない。もちろんこの後も別のクラスが授業でこの場を使うだろうから何時までも居ることは不可能だったが、それでもサンジは腹立たしげに目の前のパネルを睨み付けて舌打ちを繰り返した。
 魔王の砦はやはり噂で聞いていた以上に難易度の高いものだったが、サンジの予想通り一発クリアできないプログラムではなかったのだ。
 だが、実際終わってみると”GAME OVER”の文字が表示され、サンジも他の級友たちと同じく再度このプログラムに挑まなければならないという事になってしまった。
「くっそぉぉ・・」
 地団太を踏むようにして悔しがってみても事実は事実として取り消すことは出来ないのだ。サンジはもう一度だけ怒りを床にぶつけるとダカダカと派手な音を立ててロッカールームへと向かって歩き出した。
 今回、ランダムで組み合わされたにしてはサンジのパーティーは非常に攻守のバランスがよく、且つ、優秀なメンバーだと、互いの能力値を確認してホッとしたのだ。オレンジの髪のナミという女の子は攻撃は多少苦手なようだったが他の女子の値からすればかなり高く、防御に関してはほぼ99%安心しておける能力を有していたし、プログラム内容を知っているのではないのか?と思ってしまうぐらい情報分析に優れていた。そして緑の髪のロロノアと名乗った男子生徒は異様なぐらい攻撃値が強く、防御に多少不安があるものの、妨害プログラムを一人で排除してしまうぐらい片手間にやってのけるぐらい強かったのだ。だから、サンジは攻撃面を彼一人に任せて、ナミと共に砦攻略のためのアレやコレやに奔走した。ナミは可愛く賢く頼もしかったし、会話はないもののコチラの意思が筒抜けなのじゃないかと疑ってしまうぐらい的確に邪魔プログラムとして出てくるモンスターもどきを排除する男の姿にサンジは最後の最後まで一発クリアを信じて疑っていなかった。
 だからまるでRPGの中に出てくる最終ボス、魔王が奥深くにいそうな砦に3人で踏み込んだとき、頭の中はうらやましそうなクラスメイト達の顔と攻略への質問攻めに答える己の姿を想像でいっぱいだったのだ。
「おーい、サンジー」
「あー、先行っといてくれー」
「おー」
  先にロッカールームで着替えていた級友に答えてサンジは汗に濡れたウエアをロッカーに放り込んだ。
 中学入学と同時に買い与えられたウエアはまだピカピカと新しく、当分買い換える時期は来そうにない。伸縮性にとんだウエアは高額な買い物である分、買ってから一年以内ならサイズ交換保証がつくのだ。女子生徒はあまり変化がないが、男子生徒は身長や体重に変化があるものが多い為保証金をつけて購入することが多いのだ。ただ、サンジはその期間を過ぎて、あと半年で中学を卒業しようというのに変化のない身長体重にクルリと巻いた特徴的な眉を顰めた。
 同じプログラムに参加していたということはあのロロノアという生徒はサンジと同じ学年だということになる。
 サンジより頭一つ分高く、一回りぐらい大きな体をした、今回のゲームクリアにならなかった原因は。
 PiPiPiPiPi・・・・バサバサと派手な音をたてて制服に着替えていたサンジの鞄から小さな機械音が漏れてくる。慌てて取り出した小型モバイルを覗き込めばナミという先程の少女の名前が表示されていた。
「・・・・ありがとう・・・・って・・・・ハハ」
 そういえばプログラムが始まる前にナミという少女とはアドレス交換をしていたのだと可愛らしく彩られた文字にサンジは苦笑した。3人パーティーではあるが全員がプログラムをクリアしなければならないというものではない。もちろん3人揃ってゲームオーバーになることもあれば、今回のようにナミだけがゲームクリアになることもある。
「どういたしまして・・っと」
 心の葛藤はおいて、ナミに柔らかな色彩の返事を返して、サンジは一つ溜め息をついた。
「ん?」
 返事を返すとすぐに手元で鳴ったモバイルに目を向ければ、またナミからメールが送られてきている。これはもしかして美少女とお近づきになれたのか!と喜び勇んで開いた文面にサンジは眉を寄せ、コトリと首を横に傾げた。
『今日の放課後時間ある?』
 ありますけど・・・と素直に返しながらサンジはウーン?と唸った。
『駅前のオールブルーに16時。OK?』
 OKっとハートマーク付きで返してサンジはニンマリと唇を歪めた。メル友になれればいいと思ってアドレスを交換したのだが、ナミが通う学校もこの近辺だったらしく一気にリアルお友達だとサンジはニヤニヤと笑み崩れた。
 今回の魔王の砦一発クリア出来なかったのは残念だったが、ナミという美少女と友達になれたのなら問題ないと、サンジはロッカーに入ったときとは別人のように上機嫌になりながら残りの授業へと向かったのだった。


~続く~


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【2010/03/06 14:41 】 | パラレル設定
花束をどうぞ -1-

 キーンコーン、カーンコーン。
 いつの時代になってもこれこそが定番とばかりに校舎に鳴り響いた鐘の音にサンジは級友達とのおしゃべりをやめて慌てて自分の席へと戻った。
 本日3つ目の授業は『体育』。サンジがもっとも得意とする授業の一つだ。
「今日は『魔王の砦』クリアが課題になる」
 ガラリと大きな音を立てて入ってきた教師が教卓から室内の生徒に宣言するやいなやあちらこちらから大きな溜め息が漏れた。
 魔王の砦というのは生徒達が皮肉を篭めてつけた仇名で、体育のバーチャルプログラムの一つなのだが非常に困難でクリアが難しいものだ。
 近未来、すべての教育は肉体と脳を切り離した形で行われるようになっていた。
 体は身体として育成プログラムが組まれ、無駄なトレーニングは授業として組み込まれることはない。またその育成プログラムの中で特出した能力を示した子供がいれば、幼い時からその道のプロとしてアスリート教育を受けることも出来るのだ。
 脳のトレーニングと違いバーチャルプログラムは実際の体を使ったトレーニングになる。
 早い話が専用のウエアを着て、飛んだり跳ねたり走ったり、仮想空間の中を動き回ることになる。
「なあなあ、サンジィー、俺とパーティー組もうぜ」
 コンと後ろから椅子の足を蹴られて話しかけられるのにサンジはニンマリと笑みを浮かべた。
 級友達と違い日常でも体を鍛えてるサンジはクラスの中でもダントツでバーチャルプログラムの成績はいい。もともと運動神経もいいし、頭の回転も速く、トラップにも引っかかりにくいサンジは体育だけでいえば三本指にはいるぐらい成績はいいのだ。
「あー、まあ、組めたらな」
 ほんの少しだけ後ろを振り返ってニヤリと笑いながら告げたサンジに小さく不貞腐れたようなちぇッという返事が返ってくる。サンジが知っている魔王の砦というプログラムは男子2名に女子1名のランダムパーティーで構成されるはずだ。しかも同じ時間に同プログラムをネットを使って繋いで行う為同じ学校のヤツと組むとは限らないところが、また難易度をあげているのだ。
「まず出席番号奇数のものからスタートだ。ウエアを着て体育館に集合」
「はい!!」
 教師の声に行儀よく返事が返り、半数の人間が慌ただしく教室を出て行く。
「残りのものはバランスソフト使用」
「はい!」
 一つのプログラムはだいたい30分程度。それでクリア出来なかった場合は”GAME OVER”表示が出て終わりだ。バランスソフトというのは音楽と簡単な問題が組み合わさったリラックスソフトの事だ。
「頑張って来いよー」
「おう・・・」
 先程サンジの椅子の足を蹴ったクラスメイトが力なく笑いながら教室を後にする。サンジはそれにヒラヒラと手を振りながら楽しげにバランスソフトをノートの中へと呼び出したのだった。


~続く~



 

拍手[5回]

【2010/03/02 14:12 】 | パラレル設定
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